『白鳥とコウモリ』の昔の殺人はなぜ時効?現在の法律との違いを解説

『白鳥とコウモリ』の昔の殺人はなぜ時効?

映画『白鳥とコウモリ』では、2017年に東京で発生した弁護士殺害事件と、1984年に愛知県で起きた過去の事件が結びついていきます。

作品を見て、次のような疑問を持った人もいるのではないでしょうか。

「殺人罪には時効がないはずなのに、なぜ昔の事件は時効になっているの?」
「現在になって犯人が判明しても、逮捕されないの?」

結論からいうと、現在の日本では殺人罪の公訴時効は廃止されています。

しかし、『白鳥とコウモリ』で描かれる過去の事件は1984年に発生した設定です。当時の殺人罪には15年の公訴時効があり、2010年に時効が廃止されるより前に、すでに期間が過ぎていました。

この記事では、作品の年代と日本の公訴時効制度を照らし合わせながら、昔の殺人が時効となる理由を解説します。

『白鳥とコウモリ』で時効になるのは1984年の事件

『白鳥とコウモリ』の物語は、2017年の東京と1984年の愛知を行き来しながら進みます。

2017年、善良な弁護士として知られていた白石健介が殺害されます。その捜査線上に浮かんだのが、愛知県安城市に住む倉木達郎でした。

倉木は白石殺害だけでなく、三十数年前に愛知県で起きた事件についても告白します。

過去の事件が発生したのは1984年です。場所は名鉄東岡崎駅近くの雑居ビルで、金融業者の灰谷昭造が殺害されました。

作品の基本となる年代は次のとおりです。

出来事
愛知県で過去の殺人事件が発生1984年
当時の公訴時効が完成する時期1999年ごろ
殺人罪の時効が15年から25年へ延長2005年施行
殺人罪の公訴時効が廃止2010年
東京で白石健介殺害事件が発生2017年

1984年の事件は、当時の15年という期間で計算すると、1999年ごろに公訴時効が完成します。

その後の法改正より前に時効が成立しているため、現在の「殺人罪には時効がない」という制度を、さかのぼって適用することはできません。

作品の年代と舞台は、幻冬舎の原作特設ページでも紹介されています。

そもそも公訴時効とは?

公訴時効とは、犯罪が行われてから一定の期間が過ぎると、検察官がその事件を起訴できなくなる制度です。

「警察が捜査できなくなる期限」と完全に同じ意味ではありません。刑事裁判を始めるために、検察官が公訴を提起できる期限を指します。

公訴時効が完成した事件では、後から犯人が名乗り出たり、新しい証拠が発見されたりしても、その犯罪について刑事裁判で処罰することは原則としてできません。

ただし、時効が成立したからといって、

  • 犯罪そのものがなかったことになる
  • 犯人が無罪と認定される
  • 遺族に対する責任がすべてなくなる
  • 道徳的な罪まで消える

という意味ではありません。

『白鳥とコウモリ』が描くのも、法律上の処罰だけでは解決できない罪、後悔、家族への影響です。

1984年当時の殺人罪の時効は15年だった

現在の感覚では意外ですが、2005年の改正法施行前まで、殺人罪の公訴時効は15年でした。

その後、公訴時効は段階的に見直されています。

2005年に15年から25年へ延長

2004年の刑事訴訟法改正を受け、2005年から、死刑に当たる罪の公訴時効が15年から25年へ延長されました。

殺人罪も、この対象に含まれます。

法務省「平成17年版 犯罪白書」

しかし、『白鳥とコウモリ』の1984年の事件は、改正前の1999年ごろに15年が経過しています。2005年の時点では、すでに時効が完成していた計算です。

完成済みの時効を、後から25年へ延長して復活させることはできません。

2010年に殺人罪の公訴時効が廃止

2010年4月27日の法改正により、殺人罪や強盗殺人罪など、人を死亡させた罪のうち法定刑の上限が死刑となる犯罪について、公訴時効が廃止されました。

これ以降は、殺人事件から何十年が経過しても、時効だけを理由に起訴できなくなることはありません。

警察庁「公訴時効制度の改正について」

2010年より前の事件もすべて時効がなくなった?

2010年より前に起きた事件でも、法改正の施行時点で公訴時効が完成していなければ、新しい規定が適用されます。

一方、施行時点ですでに時効が完成していた事件には適用されません。

整理すると、次のようになります。

2010年4月27日時点の状態改正後の扱い
まだ時効が完成していない改正後の規定が適用される
すでに時効が完成している時効は復活しない

法務省も、改正法施行時に公訴時効が完成していない事件には、改正後の規定が適用されると説明しています。

法務省「公訴時効の改正について」

作中の1984年の事件を現在の法律で考えたら?

仮に同様の殺人事件が現在発生した場合、公訴時効はありません。

犯人が長期間見つからなくても、新しい証拠やDNA鑑定、本人の供述などによって犯罪を立証できれば、数十年後に起訴される可能性があります。

しかし、1984年の事件を現在の制度だけで判断することはできません。

犯罪が発生した当時の法律、その後の改正時期、改正時点で時効が完成していたかを確認する必要があります。

『白鳥とコウモリ』の設定では、

  1. 1984年に事件が発生
  2. 当時の時効期間は15年
  3. 1999年ごろに時効が完成
  4. 2005年の延長より前に完成済み
  5. 2010年の廃止時にも完成済み

となるため、後から時効廃止の規定を適用できないことになります。

時効になれば自白しても逮捕されない?

時効が完成した犯罪について本人が自白しても、その事件を殺人罪として起訴し、刑事罰を科すことは原則としてできません。

ただし、自白の内容に別の犯罪が含まれている場合や、証拠を隠すために新たな犯罪を行った場合まで、すべて処罰されないとは限りません。

また、民事上の損害賠償には刑事事件の公訴時効とは別の制度があります。

作品を離れた実際の事件では、個別の事情や適用法によって結論が変わるため、「古い事件なら何を告白しても一切責任を問われない」と一般化することはできません。

『白鳥とコウモリ』で時効が重要な理由

『白鳥とコウモリ』は、時効制度そのものを解説する法律ミステリーではありません。

重要なのは、刑事責任を追及できる期間が終わっても、関係者の苦しみは終わらないという点です。

過去の事件によって、

  • 犯人と疑われた人
  • その家族
  • 被害者の遺族
  • 真実を知りながら生きる人
  • 後から事実を知らされる子ども

の人生が変わっていきます。

法律上の「時効」と、人の中に残る罪悪感や社会的責任は別のものです。その違いが、本作の「罪と罰」というテーマにつながっています。

まとめ

『白鳥とコウモリ』の昔の殺人が時効になっているのは、事件が1984年に発生した設定だからです。

当時の殺人罪の公訴時効は15年で、事件は1999年ごろに時効を迎えた計算になります。

その後、殺人罪の公訴時効は、

  • 2005年に15年から25年へ延長
  • 2010年に廃止

と変更されました。

しかし、法改正前にすでに完成した時効が、後から復活することはありません。

現在の殺人罪には公訴時効がないものの、その制度を1984年の事件へそのまま当てはめられないことが、作品内で昔の殺人が時効として扱われる理由です。