Netflix『ダウンタイム』のヒアルロン酸で失明は本当にある?実際の症例と原因を調査

Netflix『ダウンタイム』には、美容医療の怖さを感じさせるさまざまなトラブルが登場します。

その中でも気になるのが、ヒアルロン酸注射によって失明する可能性があるという話です。

ヒアルロン酸注射といえば、鼻を高くしたり、しわやほうれい線を目立たなくしたりする「切らない美容整形」の代表的な施術。

目に注射するわけでもないのに、本当に失明することがあるのでしょうか。

調べてみると、これはドラマのために作られた架空の事故ではありません。

ヒアルロン酸などのフィラー注入後に視力を失った症例は、世界各国で実際に報告されています。

特に注意が必要とされているのが「鼻」「眉間」「額」など、普段から美容目的でヒアルロン酸が注入されている顔の部位です。

ヒアルロン酸注射で失明することは本当にある

結論からいうと、非常にまれではあるものの、ヒアルロン酸注射によって失明する可能性はあります。

顔へのフィラー注入後に起きた視力障害を世界の医学文献から集めたレビューでは、2020年3月までに233例の視力障害が確認されています。

そのうち172人は少なくとも片目に重度の視力障害がありました。

原因となった注入物で最も多かったのがヒアルロン酸で、確認できた215例のうち105例、48.8%を占めています。次いで自分の脂肪を注入する脂肪注入が65例でした。

つまり、

「ヒアルロン酸を顔に注射して失明する」

という事故そのものは、医学的にも確認されている事実です。

目に注射していないのになぜ失明するのか

一番不思議なのはここでしょう。

鼻や眉間に注射したヒアルロン酸が、なぜ目に影響するのでしょうか。

原因は顔と目の血管がつながっていることにあります。

ヒアルロン酸が誤って動脈の中に入り、注入時の圧力によって血流とは逆方向へ押し込まれることがあります。

そして注射を押す力がなくなったとき、血流によってヒアルロン酸が眼動脈や網膜へ向かう血管へ移動し、血管を塞いでしまうことがあります。

網膜へ血液を送る血管が詰まれば、網膜への血流が途絶えます。

これがヒアルロン酸注射による視力障害の大きな原因です。

つまり、針が目まで届いてしまうわけではありません。

血管の中に入ったヒアルロン酸が、血管を通って目の血流を塞いでしまうのです。

特に失明事故が多いのは鼻・眉間・額

顔のどこにヒアルロン酸を入れても同じ危険性があるわけではありません。

233例を分析したレビューでは、注入部位が一か所だった178例のうち、最も多かったのは次の部位でした。

  • 鼻 65例(36.5%)
  • 眉間 48例(27.0%)
  • 額 36例(20.2%)
  • ほうれい線 13例(7.3%)

特に鼻・眉間・額に症例が集中しています。

これらの場所には眼動脈につながる血管があるためです。

別の研究でも、眼動脈の閉塞は鼻への注入、網膜動脈の閉塞は眉間への注入で多く報告されています。

鼻のヒアルロン酸注射は、メスを使わず鼻筋を高くできる施術として実際に行われています。

身近な美容施術だからこそ、非常にまれとはいえ、このような重大な合併症が存在することは知っておいたほうがよさそうです。

実際にはどのくらいの確率で起こる?

では、ヒアルロン酸注射を受けると、どのくらいの確率で視力を失うのでしょうか。

正確な発生率は、公式のデータでは確認することができませんでした。

症例が非常に少ないうえ、世界中で行われているフィラー注入の総数を正確に把握できず、報告されていない事故が存在する可能性もあるためです。

専門家によるコンセンサス論文では、顔へのフィラー注入による視力障害について約0.001%と推定しています。ただし、過少報告の可能性があるとも指摘しています。

別の近年の医学レビューでも、およそ10万回に1回程度とする推定が紹介されています。

したがって、頻繁に起こる事故ではありません。

しかし、起きた場合の結果が非常に重大なのが、この合併症の怖いところです。

一度失明すると元に戻らないことも多い

ヒアルロン酸なら「溶かせるから大丈夫」と思う人もいるかもしれません。

実際、ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼという酵素によって分解することができます。美容医療でも、注入したヒアルロン酸の仕上がりを修正する目的などで使われています。

しかし、視力障害が起きた場合は話が違います。

フィラーによる血管障害を分析した研究では、転帰を確認できた85例のうち、全部または一部が回復したのは24例。一方、61例では改善が確認されませんでした。

別のレビューでも、眼動脈が閉塞した場合には視力が戻らないケースが多いことが報告されています。

網膜は血流が途絶えることに非常に弱いため、いかに早く対応するかが重要になります。

現在もフィラーによる視力障害に対する治療法について研究やガイドライン作成が続いていますが、確実に視力を回復させられる治療法が確立しているわけではありません。

失明だけでなく脳梗塞につながった症例もある

さらに深刻なのは、ヒアルロン酸などが目だけではなく脳へ向かう血管にも影響する可能性があることです。

93例の血管合併症を分析した研究では、12例でMRIによって脳梗塞が確認されています。

また、233例をまとめた別のレビューでも、神経症状を確認できた216人のうち35人に何らかの神経症状がありました。

非常にまれな事故ではありますが、「美容注射だから大きな医療事故にはならない」とは言い切れないことが分かります。

『ダウンタイム』の失明事故は大げさな演出ではなかった

『ダウンタイム』には、美容医療業界の極端な出来事が次々と登場します。

そのため、ヒアルロン酸注射による失明についても「ドラマだから大げさに描いているのでは」と感じるかもしれません。

しかし、この点については医学的な裏付けがあります。

世界の症例をまとめた研究では、ヒアルロン酸を含む美容目的のフィラー注入後に視力を失った症例が多数報告されており、特に鼻・眉間・額への注入が多くを占めています。

発生する確率そのものは非常に低いと考えられています。

それでも、一度起きると視力が十分に回復しないケースも少なくありません。

『ダウンタイム』で描かれた「美容目的のヒアルロン酸注射によって失明する」という事故は、ドラマだけの創作ではなく、現実の美容医療でも報告されている重大な合併症です。

手軽な「プチ整形」というイメージのあるヒアルロン酸注射ですが、医療行為である以上、まれながら重大なリスクも存在するということなのでしょう。