ドリームワークスのアニメ映画『Forgotten Island』には、人間の女性の姿から翼を持つ怪物へ変わる「マナナンガル」が登場します。
上半身と下半身が分離するという強烈な姿は映画だけの創作に見えますが、マナナンガルはフィリピンで古くから語られてきた怪異です。
先に結論をまとめると、マナナンガルは夜になると身体を上下に分離させ、翼を広げて飛ぶとされるフィリピンの妖怪です。映画ではレア・サロンガが声を担当し、物語の舞台ナカリで最も恐れられる存在として登場します。
この記事では、マナナンガルの特徴、アスワンとの違い、弱点とされるもの、映画で変更された部分を分かりやすく整理します。
映画『Forgotten Island』とは
『Forgotten Island』は、ドリームワークス・アニメーションが製作するファンタジーアドベンチャー映画です。北米では2026年9月25日に公開されます。
物語の主人公は、幼いころから親友だったジョーとライッサです。高校卒業を迎えた二人は、ライッサがアメリカへ移住することになり、離れ離れになる現実と向き合います。
そんな二人が不思議な入口を通って迷い込むのが、フィリピンの伝承を基に作られた世界「ナカリ」です。
ナカリに長く滞在すると、現実世界での記憶が少しずつ失われていきます。二人は元の世界へ帰る方法を探す一方、帰還と引き換えに互いの思い出を失う可能性に直面します。
監督・脚本を担当したのは、『長ぐつをはいたネコと9つの命』のジョエル・クロフォードとジャニュエル・メルカードです。メルカードはフィリピン系アメリカ人で、映画には自身の家族や文化的背景が反映されています。
声の出演は次のとおりです。
| 登場人物 | 声優 |
|---|---|
| ジョー | H.E.R. |
| ライッサ | リザ・ソベラーノ |
| ロウ | デイヴ・フランコ |
| マナナンガル | レア・サロンガ |
なお、現時点では日本での正式な邦題と公開日は確認できないため、この記事では原題の『Forgotten Island』を使用します。
マナナンガルはフィリピンに伝わる妖怪
マナナンガルは、フィリピンの民間伝承に登場する夜の怪物です。
昼間は普通の人間、特に女性の姿で生活しているとされます。しかし夜になると、腰の付近から身体を上下に分離させます。上半身にはコウモリのような翼が生え、空を飛びながら獲物を探します。
地上には下半身だけが残され、上半身は夜明けまでに元の身体へ戻らなければなりません。
映画の予告で見られる「女性の上半身が翼を広げて飛ぶ」という姿は、この伝承を直接取り入れたものです。身体が分離する設定自体が、映画のために考案されたわけではありません。
マナナンガルという名前の意味
「マナナンガル」という名前は、タガログ語で「取り外す」「分離する」という意味を持つ「tanggal」に由来します。
そこから「自らを分離させる者」「身体を切り離す者」という意味で、マナナンガルと呼ばれるようになったと説明されています。
姿だけでなく、名前そのものが身体の分離を表しているわけです。
アスワンとマナナンガルの違い
フィリピンの怪物を調べると、「アスワン」という名前も頻繁に登場します。そのため、アスワンとマナナンガルを同じ妖怪の別名だと思うかもしれません。
両者の関係は、次のように整理すると分かりやすくなります。
- アスワンは、変身する魔女、人を襲う怪物、吸血鬼に似た存在などを含む広い呼び名
- マナナンガルは、身体を上下に分離させて飛ぶという特徴を持つ怪物
つまり、アスワンが怪物の大きな分類で、マナナンガルはその一種として扱われることがあるという関係です。
ただし、フィリピン各地の伝承はひとつの体系に統一されていません。地域によってアスワンとマナナンガルを明確に分ける場合もあれば、よく似た存在として語る場合もあります。
日本の妖怪でたとえるなら、「鬼」「化け物」のような幅広い呼び方と、特定の姿や行動を持つ個別の妖怪との違いに近いものです。
マナナンガルはなぜ上半身だけで飛ぶのか
マナナンガルの伝承で重要なのは、空を飛べることだけではありません。身体を分離することで、普段は人間社会へ紛れ込み、夜だけ正体を現す二重性が生まれます。
昼間の姿からは怪物だと見抜けないため、集落の中に正体を隠したマナナンガルがいるという恐怖につながりました。
また、上半身が狩りへ出ている間、地上に残った下半身は動けません。この下半身が唯一の大きな弱点になります。
強大な怪物でありながら、身体を分離する能力そのものが弱点にもなるところが、マナナンガル伝承の特徴です。
下半身を見つけると倒せるという伝承
マナナンガルを倒す方法として最もよく知られているのが、地上に残された下半身を探す方法です。
伝承では、下半身の切断面へ次のようなものを振りかけると、上半身が元に戻れなくなるとされています。
- 塩
- 灰
- ニンニク
- 香辛料
- 聖水
上半身と下半身が夜明けまでに結合できなければ、朝日を浴びて命を失うと語られています。
ただし、これはフィリピン全域で完全に共通する決まりではありません。地域や物語によって、使用するものや倒し方は異なります。
「下半身を見つけることが攻略の鍵」という基本部分は広く知られていますが、細かな弱点には複数の型があります。
ニンニクが弱点なのは吸血鬼と同じだからではない
翼、牙、夜行性、ニンニクを嫌うという特徴から、マナナンガルは「フィリピン版の吸血鬼」と紹介されることがあります。
分かりやすい説明ではありますが、西洋の吸血鬼がフィリピンへ伝わって、そのままマナナンガルになったという意味ではありません。
東南アジアには、身体の一部を切り離して夜空を飛ぶ女性の怪異が複数の地域に存在します。
| 地域 | 怪異の例 | 主な姿 |
|---|---|---|
| フィリピン | マナナンガル | 上半身が下半身から分離する |
| タイ | クラスー | 頭部と内臓が浮遊する |
| マレーシア | ペナンガラン | 頭部と内臓が身体を離れる |
| インドネシア | クヤン | 頭部と内臓が夜間に飛ぶ |
マナナンガルは、こうした東南アジア各地の「身体から離れて飛ぶ女性の怪異」と近い系統にあります。
吸血鬼と共通点はありますが、身体の分離や残された下半身という特徴は、フィリピンと東南アジアの伝承に根差したものです。
映画ではレア・サロンガがマナナンガルを演じる
『Forgotten Island』でマナナンガルの声を担当するのは、フィリピン出身の世界的ミュージカル俳優レア・サロンガです。
レア・サロンガは、ブロードウェイミュージカル『ミス・サイゴン』で知られ、ディズニー映画『アラジン』のジャスミンや『ムーラン』の歌唱も担当しています。
本作のマナナンガルは、単に予告の中で一瞬だけ登場する怪物ではなく、ナカリで最も恐れられる存在として位置づけられています。
Reutersの取材では、ジョー役のH.E.R.が、幼いころ母親から「マナナンガルが来る」と聞かされて育ったことを語っています。フィリピン系の出演者にとっても、子どものころから身近だった怪談が大作アニメへ登場することになります。
映画版では怖さが抑えられている可能性
伝承上のマナナンガルには、夜間に人間を襲うかなり恐ろしい話が残っています。特に妊婦や幼い子どもを狙うという語りが有名です。
一方、『Forgotten Island』は幅広い年代を対象としたアニメーション映画です。そのため、伝承の刺激が強い部分をそのまま描くのではなく、次の要素を中心に再構成していると考えられます。
- 身体が上下に分離する姿
- コウモリに似た翼
- 夜空を飛ぶ能力
- ナカリで最も恐れられる怪物という立場
- 人間の女性と怪物の二つの顔
伝承の特徴的な外見と恐怖感を残しながら、家族向けの冒険作品で扱える敵役へ調整した形です。
映画を見たあとに伝承を調べると、劇中では省かれた背景や弱点まで分かり、マナナンガルの見え方も変わります。
マナナンガル以外のフィリピン文化も登場する
『Forgotten Island』には、マナナンガル以外にもフィリピンの文化や伝承を基にした要素が多数登場します。
- フィリピン神話の鳥サリマノク
- 狼男ならぬ「犬男」として描かれるロウ
- 乗合バスとして親しまれるジープニー
- 竹を使った伝統舞踊ティニクリン
- 小物や飾りを多数集める「アニック・アニック」の感覚
- フィリピンの料理やカラオケ文化
ナカリは、ひとつの伝説をそのまま再現した島ではありません。フィリピン各地の怪異、神話、日常文化を組み合わせて作られた架空世界です。
そのため、マナナンガルの姿も特定地域の伝承を完全に再現したものではなく、映画の世界観に合わせた新しい解釈と見るのが自然です。
まとめ
映画『Forgotten Island』に登場するマナナンガルは、映画オリジナルの怪物ではありません。
フィリピンの民間伝承では、昼間は人間の女性として暮らし、夜になると上半身と下半身を分離させ、翼を広げて飛ぶ怪異として語られています。
アスワンはフィリピンのさまざまな怪物を含む広い呼び名であり、マナナンガルはその一種として扱われることがあります。地上に残された下半身が弱点で、塩や灰などを使って再結合を妨げるという伝承もあります。
『Forgotten Island』ではレア・サロンガが声を担当し、マナナンガルはナカリで最も恐れられる怪物として登場します。
したがって映画版は、上半身が分離する姿や夜空を飛ぶ能力は伝承を受け継ぎ、刺激の強い部分は家族向けアニメとして再構成したものと整理できます。