映画『オデュッセイア』で、オデュッセウスの帰りを待ち続ける愛犬アルゴス。短い登場場面ながら、物語の「帰還」というテーマを象徴する存在です。
成犬のアルゴスを演じたのは、ソーヤーという撮影犬。犬種は、ポルトガル原産の古い猟犬「ポデンゴ・ポルトゥゲス」です。
この記事では、ソーヤーの撮影秘話、犬種の特徴、原作でアルゴスが20年間待ち続けた理由を紹介します。
アルゴス役の犬種はポデンゴ・ポルトゥゲス
成犬のアルゴスを演じたソーヤーは、ポデンゴ・ポルトゥゲスです。
ポルトガル語の発音に近い日本語表記として「ポデンゴ・ポルトゥゲス」を使用しますが、「ポデンゴ・ポルトゲス」「ポーチュギーズ・ポデンゴ」と表記されることもあります。
細身の胴体、長い脚、大きな立ち耳を持ち、グレイハウンド系の犬を思わせる姿が特徴です。ただし、サイトハウンドとまったく同じ分類ではなく、視覚、嗅覚、聴覚を使って獲物を追う猟犬として発達しました。
ポデンゴ・ポルトゥゲスはどこの犬?
ポデンゴ・ポルトゥゲスはポルトガル原産です。古代の地中海地域にいた犬が、フェニキア人などによってイベリア半島へ伝えられたとする説があります。
長い間、ウサギなどの小動物を追う猟犬として飼育されてきました。険しい土地でも素早く動き、自分で状況を判断して獲物を探す能力を持っています。
大型・中型・小型の3種類がいる
ポデンゴ・ポルトゥゲスには、サイズによって3つの種類があります。
| 種類 | ポルトガル語 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 大型 | グランデ | 大きな獲物の狩猟にも用いられた |
| 中型 | メディオ | ウサギ猟などで活躍する運動能力の高いタイプ |
| 小型 | ペケーノ | 小さな体で岩場や狭い場所にも入れる |
被毛にも、短く滑らかなスムースタイプと、硬く長いワイヤータイプがあります。したがって、犬種全体を単に「中型犬」と説明するのではなく、複数のサイズが存在すると書くのが適切です。
アルゴスを演じたソーヤーとは
成犬のアルゴスを演じたソーヤーは、撮影経験のある犬です。報道によると、『野性の呼び声』やドラマ『シェイムレス』などにも出演し、一度は現役を退いていました。
『オデュッセイア』への出演にあたり、約2か月の訓練を実施。大きく動くのではなく、頭をわずかに上げ、尻尾を静かに振るという繊細な演技を身につけました。
アルゴスの若い時代には別の犬も使われています。そのため、映画に登場するすべてのアルゴスをソーヤー一匹だけが演じたわけではありません。
「世界に75匹しかいない」は本当?
エウマイオス役のジョン・レグイザモは、テレビ番組でポデンゴ・ポルトゥゲスについて「世界に75匹しかいない」と話したと紹介されています。
ただし、この数字を世界全体の正確な飼育頭数として裏付ける公的統計は確認できませんでした。
ポデンゴ・ポルトゥゲスには3つのサイズと2種類の被毛があるため、特定のサイズや系統、撮影条件に合う犬を指した可能性もあります。記事では「世界に75匹」と断定せず、レグイザモの発言として紹介するのが安全です。
アルゴスは誰の犬?
アルゴスの主人は、イタケー王オデュッセウスです。
映画では、視覚障害のある忠僕エウマイオスがアルゴスのそばにいますが、エウマイオスが本来の主人というわけではありません。
正確には、アルゴスはエウマイオスに見守られながら、主人オデュッセウスの帰還を待っていた犬です。映画公式でも、エウマイオスはオデュッセウスの帰還を信じる忠僕として紹介されています。
原作のアルゴスは20年間主人を待った
原作では、アルゴスはオデュッセウスが育てた優れた猟犬です。
しかし、オデュッセウスはアルゴスが猟犬として活躍する前にトロイア戦争へ出発します。戦争に10年、帰還の旅にさらに10年かかり、合計約20年間故郷を離れました。
オデュッセウスが物乞いに身をやつして帰国したとき、人間たちは正体に気づきません。それでも、老いて弱ったアルゴスだけは主人の声や気配を感じ取り、耳と尻尾を動かします。
正体を隠す必要があるオデュッセウスは、その場で愛犬を抱きしめることができません。涙を隠しながら通り過ぎます。アルゴスは主人の帰還を見届けた直後、静かに息を引き取ります。
なぜアルゴスの場面が重要なのか
アルゴスは、オデュッセウスが本当に故郷へ戻ったことを最初に認める存在です。
地位や服装ではなく、長い時間を越えて主人そのものを見抜きます。一方、オデュッセウスは目的を果たすため、再会の喜びを表に出せません。
この場面には、次の意味が重なっています。
- 20年という時間の長さ
- 故郷が荒れてしまった現実
- 記憶と忠誠
- 帰還したのに名乗れない孤独
- オデュッセウスが失った時間
怪物との戦いとは異なる、静かな場面だからこそ、アルゴスの小さな動きが強く印象に残ります。
まとめ
映画『オデュッセイア』で成犬のアルゴスを演じたのは、ポデンゴ・ポルトゥゲスのソーヤーです。
ポデンゴ・ポルトゥゲスはポルトガル原産の古い猟犬で、大型・中型・小型と複数のタイプがあります。ソーヤーは約2か月の訓練を経て、頭や尻尾のわずかな動きだけで、20年間主人を待った犬の感情を表現しました。
アルゴスは単なる主人公のペットではありません。誰も正体に気づかないなかで、オデュッセウスを最初に見抜く存在であり、物語の中心にある「帰還」と「失われた時間」を象徴する犬です。