Netflixシリーズのドラマ『九条の大罪』では、九条間人(くじょう・たいざ)が逮捕された依頼人へ「カンモク」を指示し、「20日でパイにする」と説明する場面が何度も登場します。
弁護士や捜査機関が使う言葉を細かく説明するテロップがないため、
「カンモクとは完全黙秘のこと?」
「パイは保釈?それとも釈放?」
「なぜ20日なの?」
「黙っていれば必ず外へ出られるの?」
と疑問を持った方も多いのではないでしょうか。
映画『九条の大罪』の公式あらすじでも、逮捕状を突きつけられた九条が「自らを20日間でパイにできるのか」と紹介されています。映画を見る前に刑事手続の流れを知っておけば、九条が何をしようとしているのか理解しやすくなります。
この記事では、「カンモク」「パイ」を中心に、ドラマ『九条の大罪』で使われる法律用語と業界用語を分かりやすく解説します。
※この記事はドラマを理解するための一般的な法律解説です。個別の事件で黙秘や供述の方針を判断する場合は、必ず弁護士へ相談してください。
『九条の大罪』の法律用語一覧
まず、記事で扱う言葉を簡単に確認しておきましょう。
| 作中の言葉 | おおまかな意味 |
|---|---|
| カンモク | 完全黙秘。取調べで原則として何も供述しないこと |
| パイ | 身柄が解放されることを指す俗な表現 |
| 20日でパイ | 起訴前の勾留期間を乗り切り、釈放を目指すという作中の方針 |
| 逮捕 | 被疑者の身柄を一時的に拘束する強制処分 |
| 勾留 | 逮捕後も捜査のために身柄を拘束する処分 |
| 接見 | 弁護士が身体拘束中の依頼人と面会すること |
| 起訴 | 検察官が裁判所へ刑事裁判を求めること |
| 不起訴 | 検察官が刑事裁判へかけないと判断すること |
| 保釈 | 起訴後の被告人を保証金などの条件で解放する制度 |
| 示談 | 当事者間で被害弁償などについて合意すること |
| イソ弁 | 法律事務所に雇われて働く弁護士を指す俗称 |
| 利益相反 | 一方を守ると、別の依頼人の利益を害する状態 |
作品では、正式な法律用語と、弁護士や裏社会の人物が使う略語・俗語が混ざっています。
特に「パイ」は、公式情報の中でも「釈放」と「保釈」の両方の意味で説明されているため、法律上の制度とは分けて理解する必要があります。
カンモクとは完全黙秘のこと
「カンモク」は、完全黙秘を短くした表現です。
逮捕後の警察や検察による取調べで、事件について原則として何も話さない方針を意味します。
黙秘権とは?
日本国憲法では、誰も自分に不利益な供述を強要されないことが保障されています。
裁判所の刑事事件Q&Aでも、被告人は公判で終始沈黙でき、個々の質問への回答を拒むこともできると説明されています。
一般に「黙秘する」といっても、すべての質問へ一切答えない場合もあれば、氏名など一部へ答えながら事件の内容について話さない場合もあります。
『九条の大罪』で九条が指示するカンモクは、捜査機関へ事件の情報を渡さず、供述調書を証拠として使われる危険を減らすための徹底した完全黙秘です。
黙秘すると罪を認めたことになる?
黙秘権を使うこと自体は、罪を認めることではありません。
刑事裁判では、被告人が罪を犯したことを立証する責任は検察官にあります。被疑者や被告人が自分の無実を証明できなければ自動的に有罪になる、という仕組みではありません。
ただし、黙秘すれば事件が必ず解決したり、必ず不起訴になったりするわけでもありません。
防犯カメラ、スマートフォンの記録、DNA、目撃証言、共犯者の供述など、本人の言葉以外の証拠が十分にあれば、黙秘したまま起訴される可能性があります。
九条がカンモクを指示する理由
九条が完全黙秘を重視する主な理由は、依頼人が不利な供述をしてしまうのを防ぐためです。
取調べで話した内容は、言葉の受け取られ方や調書のまとめ方によって、本人の意図と異なる形で証拠になる可能性があります。また、一度説明した内容を後から訂正すると、供述が変わったとして信用を疑われることもあります。
さらに、組織犯罪では、自分の罪を軽くしようとして仲間の名前を出せば、釈放後に裏切り者と見なされる危険があります。
九条は刑事手続だけでなく、依頼人が外へ戻った後の危険まで考え、話さないことを選ばせています。
パイとは釈放?保釈?
「パイ」は、作中で身柄が解放されることを表す俗な言葉として使われています。
しかし「釈放」と「保釈」は、法律上は同じ意味ではありません。
| 言葉 | 意味 | 主な時期 |
|---|---|---|
| 釈放 | 身柄拘束が解かれ、外へ出ることの総称 | 逮捕後、勾留中、不起訴時など |
| 保釈 | 保証金などを条件に、勾留中の被告人を解放する制度 | 原則として起訴後 |
裁判所の説明では、保釈は起訴された被告人について、一定額の保証金を納めることなどを条件に身柄を解放する制度です。保釈請求ができるのは起訴後で、判決が確定するまでです。
一方、逮捕後に不起訴となって外へ出る場合や、勾留請求が認められずに外へ出る場合は、通常「釈放」であり、法律上の保釈ではありません。
公式情報でも説明が分かれている
Netflixの制作秘話では、「パイ」を「釈放」と説明しています。
一方、映画公式サイトは、逮捕状を出された九条について「20日間でパイ(保釈)にできるのか」と記載しています。
作品内の俗語としては、細かな手続を問わず「外へ出る」という意味で広く使われている可能性があります。
ただし実際の法律を説明する場合、起訴前の釈放と起訴後の保釈は区別しなければなりません。
「20日でパイ」の20日とは?
20日という数字は、逮捕後の被疑者勾留の期間と関係しています。
逮捕から勾留までの流れ
裁判所の説明によると、警察官は被疑者を逮捕してから48時間以内に、釈放するか、身柄を検察官へ送る必要があります。
検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕時から72時間以内に、次のいずれかを判断します。
- 裁判官へ勾留を請求する
- 起訴する
- 被疑者を釈放する
裁判官が勾留を認めた場合、被疑者勾留は原則10日間です。やむを得ない事情がある場合は、さらに10日間以内の延長が認められることがあります。
そのため、勾留部分だけを見ると最長20日間となります。
「逮捕から20日」ではなく最長23日程度
注意したいのは、逮捕直後の最長72時間と、勾留の最長20日間は別だという点です。
一般的には、逮捕から起訴・不起訴の判断まで、最大で23日程度に及ぶ可能性があると説明されます。
作中の「20日でパイ」は、勾留期間の10日+延長10日を指す簡略化された言い方と考えられます。
事件や逮捕の回数によっては、別の容疑で再逮捕され、身体拘束がさらに続く場合もあります。そのため、どの事件でも逮捕から20日後に必ず外へ出られるという意味ではありません。
カンモクすれば20日で必ずパイになる?
結論からいうと、完全黙秘を続ければ必ず20日で釈放されるわけではありません。
捜査機関は供述以外の証拠も集めます。十分な証拠があれば、本人が黙秘していても起訴できます。
起訴されれば、起訴前の被疑者から被告人へ立場が変わり、身体拘束が続く可能性があります。その後、弁護人などが保釈を請求し、裁判所が許可すれば保証金を納めて外へ出られます。
反対に、証拠が不足して不起訴になった場合や、勾留を続ける必要がないと判断された場合は釈放されます。
つまり結果を分けるのは、黙秘した日数だけではありません。
- 事件を裏付ける客観的証拠
- 共犯者や目撃者の供述
- 逃亡や証拠隠滅の可能性
- 被害者との示談状況
- 容疑の内容と重大性
- 弁護人が提出する資料や意見
九条の「20日でパイ」は、単に黙って時間が過ぎるのを待つ作戦ではありません。接見を重ね、捜査側の証拠を予測し、示談や身元引受けなども含めて釈放を目指す弁護活動です。
映画で九条は自分をどうパイにする?
映画『九条の大罪』では、警察と検察が九条へ逮捕状を突きつけます。
九条は、これまで依頼人へ指示してきた「20日でパイ」を、自分自身に対して実行する立場になります。
ただし、2026年9月2日時点で九条の具体的な逮捕容疑は発表されていません。また、公式サイトの「保釈」が厳密に起訴後の保釈を意味するのか、作品内の俗語として釈放全般を指しているのかも明らかではありません。
九条が身柄を拘束されれば、自分で自由に依頼人や関係者へ会うことはできなくなります。
外側で証拠や身元引受けの準備を進め、捜査機関や裁判所へ働きかける弁護士が必要です。袂を分かった烏丸真司(からすま・しんじ)が「弁護士として思わぬ行動に出る」と発表されているため、九条の解放へどのように関わるかが注目されます。
接見とは?
接見とは、身体を拘束されている被疑者や被告人と弁護士が面会することです。
ドラマでは、九条が警察署などの接見室で依頼人と向き合い、カンモクの方法や今後の見通しを伝えます。
家族や友人との一般面会には、時間や回数の制限があり、職員が立ち会うことがあります。接見禁止が付くと、家族が会えない場合もあります。
これに対して弁護人との接見は、原則として立会人なしで行われ、秘密が守られます。依頼人は捜査機関に聞かれずに、事件の事実や取調べの状況を弁護士へ相談できます。
接見は、身体を拘束された人にとって、外部とつながる重要な手段です。
接見で弁護士が行うこと
弁護士は接見で、主に次のことを行います。
- 逮捕容疑や取調べ状況を確認する
- 黙秘権などの権利を説明する
- 供述する場合の注意点を伝える
- 不当な取調べを受けていないか確認する
- 家族や勤務先への連絡を預かる
- 今後の手続と見通しを説明する
- 示談や身元引受けに必要な情報を得る
『九条の大罪』で法廷より接見室が多く描かれるのは、裁判が始まる前の段階で弁護士の判断が依頼人の運命を大きく左右するからです。
逮捕と勾留の違い
逮捕と勾留は、どちらも身柄を拘束する手続ですが、同じものではありません。
| 比較 | 逮捕 | 勾留 |
|---|---|---|
| 目的 | 初期捜査のために一時的に拘束する | 捜査を続けるために拘束を延長する |
| 判断 | 原則として逮捕状に基づく | 検察官が請求し、裁判官が判断する |
| 主な期間 | 逮捕後、最長72時間以内に次の判断 | 原則10日、延長でさらに最長10日 |
| 対象の呼び方 | 被疑者 | 起訴前は被疑者、起訴後は被告人 |
逮捕されたからといって、必ず勾留されるわけではありません。
検察官が勾留を請求しない場合や、裁判官が必要性を認めない場合は釈放されます。
勾留が認められるかどうかでは、罪を犯した疑いだけでなく、逃亡や証拠隠滅のおそれ、身体拘束を続ける必要性なども問題になります。
起訴と不起訴の違い
起訴とは、検察官が刑事裁判を起こし、裁判所へ被告人の処罰を求めることです。
起訴される前は「被疑者」、起訴された後は「被告人」と呼ばれます。
不起訴は、検察官が刑事裁判へかけないと判断することです。
不起訴には、犯罪を証明する証拠が十分ではない場合のほか、犯罪の成立が認められても、事情を考慮して起訴しない場合などがあります。
不起訴になれば、その事件について刑事裁判は開かれず、身体を拘束されていれば原則として釈放されます。
九条が目指す「パイ」は、事件によって次のような形が考えられます。
- 勾留されずに釈放される
- 勾留の途中で釈放される
- 勾留満期で不起訴となり釈放される
- 起訴後に保釈が認められる
同じ「外へ出る」という結果でも、法的な経緯は異なります。
保釈と保釈金の仕組み
保釈は、起訴後に勾留されている被告人について、保証金などを条件に身体拘束を解く制度です。
被告人本人だけでなく、配偶者や親などの近親者、弁護人も請求できます。
裁判所は、逃亡や証拠隠滅のおそれ、事件の重大性、身体拘束による不利益などを考慮して判断します。
保釈金は罰金ではない
保釈保証金は、犯罪への罰として支払う罰金ではありません。
裁判へ出頭し、逃亡や証拠隠滅をしないことを確保するために預けるお金です。裁判が終わり、保釈条件へ違反していなければ、有罪・無罪にかかわらず返還されます。
逃亡したり、証拠を隠したり、定められた条件へ違反したりすると、保釈が取り消されて再び身柄を拘束され、保証金の全部または一部を没取される可能性があります。
示談とは?
示談は、事件の当事者間で被害弁償、謝罪、今後の請求などについて話し合い、合意することです。
刑事事件で示談が成立しても、犯罪そのものが自動的になくなるわけではありません。最終的に起訴するかどうかを決めるのは検察官であり、刑を決めるのは裁判所です。
ただし、被害が弁償され、被害者が処罰を望んでいないことなどは、起訴・不起訴や量刑の判断で考慮される可能性があります。
ドラマでは、九条が被害者側との交渉や金銭の支払いを進め、依頼人の処分を軽くしようとします。これも「20日でパイ」を実現するための重要な弁護活動です。
告訴の取り下げと事件の終了は同じではない
作中では、壬生の働きかけによって、京極清志(きょうごく・きよし)に対する告訴が取り下げられる場面があります。
ただし、告訴が取り下げられれば、すべての犯罪で必ず捜査や起訴ができなくなるわけではありません。
被害者の告訴がなければ起訴できない犯罪もありますが、告訴が起訴の条件ではない犯罪では、捜査機関が証拠に基づいて手続を続ける可能性があります。
作品を見る際も、「被害者が許したから犯罪が消えた」と単純に考えないほうがよいでしょう。
イソ弁とは?
烏丸は、九条法律事務所で働く「イソ弁」と紹介されています。
イソ弁は「居候弁護士」を略した俗称で、一般には法律事務所へ雇われて働く弁護士を指します。
弁護士資格を持たない助手という意味ではありません。烏丸も九条と同じ弁護士であり、自分の判断と職業上の責任を持っています。
九条が事務所の代表で、烏丸がそこで経験を積む立場にあるため、上司と部下、先輩と後輩のような関係に見えます。しかし依頼人の権利や違法行為の可能性については、烏丸も一人の弁護士として九条へ反対できます。
利益相反とは?
利益相反とは、一方の依頼人を守ろうとすると、別の依頼人の利益を害してしまう関係です。
例えば、同じ事件で責任を押しつけ合う二人を、一人の弁護士が同時に弁護すれば、片方に有利な主張がもう片方を不利にする可能性があります。
『九条の大罪』では、九条が壬生、京極、伏見組に関係する人物から次々と依頼を受けます。最初は同じ側に見えても、映画では壬生が京極を裏切り、両者が敵対します。
壬生と京極の双方から秘密を聞いている場合、九条がどちらを弁護できるのか、以前の依頼で知った情報をどう扱うのかが問題になります。
映画で九条自身に逮捕状が出る展開には、違法行為の疑いだけでなく、依頼人同士の関係が崩れたことで九条の立場が危うくなる面もあります。
「バッジが飛ぶ」とは?
烏丸は、ヤクザの弁護を続ける九条へ「バッジが飛ぶ」と警告します。
ここでいうバッジは弁護士バッジです。「バッジが飛ぶ」は、弁護士として懲戒を受け、資格や仕事を失う危険があるという意味の俗な表現です。
反社会的勢力の人物を弁護すること自体が、直ちに違法になるわけではありません。どのような人物にも弁護を受ける権利があります。
問題になるのは、証拠隠滅を手伝う、逃亡へ協力する、犯罪の利益を隠すなど、弁護活動の範囲を越えた行為です。
烏丸が恐れているのは、九条の評判が悪くなることだけではありません。依頼人を守ろうとするあまり、九条自身が犯罪へ関与したと疑われ、弁護士としての立場を失うことです。
まとめ
ドラマ『九条の大罪』の「カンモク」は完全黙秘、「パイ」は身体拘束から外へ出ることを表す俗な言葉です。
ただし、法律上は釈放と保釈を区別する必要があります。保釈は原則として起訴後の被告人を対象とする制度で、起訴前に不起訴などで外へ出る場合は釈放です。
「20日でパイ」の20日は、被疑者勾留の原則10日と延長10日を指すと考えられます。逮捕直後の最長72時間を含めれば、起訴・不起訴の判断まで最大23日程度になる可能性があります。
また、完全黙秘を続ければ必ず釈放されるわけではありません。客観的な証拠があれば、黙秘したまま起訴されることもあります。
九条は、依頼人へ黙秘を指示するだけでなく、接見を重ね、示談、被害弁償、身元引受けなどを進め、捜査機関が持つ証拠を読みながら解放を目指しています。
映画では、その九条自身が逮捕状を突きつけられます。
これまで依頼人へ語ってきた「20日でパイ」を自分に対して実現できるのか。外から弁護する人物は誰なのか。そして弁護士バッジを守れるのか。法律用語の意味を知っておけば、映画で九条が置かれた状況の厳しさが、より分かりやすくなるでしょう。