『ZIP!』の謎の男は実在する?SNSで広がる「存在しないテレビ番組」の正体

TikTokで、「2018年頃の『ZIP!』に毎朝のように映り込んでいた謎の男性」を扱った投稿が注目されています。

投稿によると、男性は『ZIP!』の朝の中継に何度も姿を見せ、放送を重ねるたびに少しずつカメラへ近づいてきたといいます。

しかし、本当にそのような放送があったのでしょうか。

調べてみると、『ZIP!』の謎の男だけでなく、『シャキーン!』や『わしも』などを題材にしたよく似た投稿も見つかりました。

これらは過去の放送事故を紹介しているのではなく、実在するテレビ番組と曖昧な記憶を組み合わせた「ロストメディア風の創作ホラー」である可能性が高そうです。

『ZIP!』の謎の男とは

話題の投稿では、2018年頃の『ZIP!』で、朝の中継に同じ男性が毎日のように映り込んでいたと説明されています。

イラストには、東京駅前から中継するリポーターと、その後ろに立つ黒い服の男性が描かれています。

男性は最初、通行人の中に紛れるように立っていました。しかし、放送されるたびにカメラとの距離を縮め、日に日に近づいてきたというのです。

投稿には、

2018年頃の『ZIP!』でこの男、覚えてませんか?

という呼びかけもあります。

いかにも、当時の番組を見ていた人から情報を集めているような内容です。

ところが、投稿には具体的な放送日や実際の映像は示されていません。

謎の男が実在した証拠は見つからない

この話について調べましたが、現在までに次のような資料は確認できませんでした。

  • 男性が映っている実際の放送映像
  • テレビ画面を撮影した当時の画像
  • 男性が登場した具体的な放送日
  • 中継を担当したリポーターの名前
  • 2018年当時のSNSや掲示板への書き込み
  • 日本テレビや番組出演者による言及
  • TikTokで話題になる以前に掲載された同じ都市伝説

全国放送の番組に同じ男性が何日も現れていたのであれば、当時の録画や視聴者の投稿が残っていても不思議ではありません。

しかし、確認できるのは手描き風の再現イラストだけです。

投稿では「2018年頃」「毎日のように」と曖昧に表現されており、検証に必要な日付や映像は提示されていません。

そのため、謎の男の正体を探す以前に、「そのような放送自体が本当に存在したのか」が確認できない状態です。

『シャキーン!』にも「謎の回」があった?

同じ形式の投稿には、NHK Eテレで放送されていた『シャキーン!』を題材にしたものもあります。

こちらは、

2016年頃の『シャキーン!』で変な回、ありませんでした?

と視聴者に呼びかけ、「ジュモクさんが突然、意味の分からないことを言った」と説明しています。

『シャキーン!』もジュモクさんも実在します。ジュモクさんの声を片桐仁さんが担当していたことも、NHKの過去の投稿から確認できます。

ここが、このシリーズの巧妙なところです。

番組も登場人物も本物なので、「そんな回があったかもしれない」と感じてしまいます。『シャキーン!』はもともとシュールで実験的な演出が多かったため、「意味の分からない発言をする回」という設定ともよくなじみます。

しかし、投稿で示された「謎の回」については、実際の映像や放送記録が見つかっていません。

朝6時50分の教育番組『そろえてみよう』

別の投稿では、2014年から2016年頃の朝6時50分に放送されていたという教育番組が紹介されています。

番組名は『そろえてみよう』。色の異なる服を着た6人の子どもが、横一列に並んでいたとされています。

ところが、『そろえてみよう』という名前の該当番組は確認できません。

放送局、地域、出演者、正確な放送時期も書かれておらず、この番組自体が創作である可能性が高いと考えられます。

実在する番組を使うだけでなく、いかにもEテレで放送されていそうな架空の教育番組まで作り出しているようです。

『わしも』の「みんなが遅れる回」とは

NHKのアニメ『わしも』を題材にした投稿もあります。

投稿では、2018年頃に「みんなが遅れる回」が放送されたとされ、

最初の5分くらいは、本当に普通の回でした。
おかしくなったのは、家族全員で夕飯を食べ始めてからです。

と説明されています。

しかし、こちらも該当する話の映像や具体的な放送日も示されていません。

「途中までは普通だった」「ある場面から突然おかしくなった」という構成は、視聴者に続きを見せるためのホラー作品でよく使われます。

投稿には共通するパターンがある

『ZIP!』『シャキーン!』『そろえてみよう』『わしも』の投稿には、いくつもの共通点があります。

同じ手描き風のイラスト

いずれも当時の実際の画面ではなく、色鉛筆で描いたような再現イラストが使われています。

テレビを見ている少年の姿や部屋の構図もよく似ています。同じ制作者(または同じAI)による連作と考えるのが自然です。

放送時期が曖昧

「2016年頃」「2018年頃」「2014~2016年頃だったと思います」など、年代は示されても具体的な日付は書かれていません。

日付が分からなければ、当日の番組表や録画を使った検証が難しくなります。

視聴者の記憶に問いかける

どの投稿も、

  • 覚えてませんか?
  • 見たことがある人はいませんか?
  • 検索しても記録がありません
  • 僕の記憶ではこうでした

という形で語られています。

最初から「事実です」と断定するのではなく、視聴者の曖昧な記憶に問いかけることで、本当にあった出来事のように感じさせています。

実在する情報を一部だけ混ぜる

『ZIP!』『シャキーン!』『わしも』は実在する番組です。ジュモクさんも実在するキャラクターです。

すべてを架空にするのではなく、本物の情報の中に架空の回や人物を混ぜることで、創作と事実の境界を分かりにくくしています。

なぜ「見た覚えがある」と感じるのか

このような投稿を見ると、実際には知らない番組でも「どこかで見た気がする」と感じることがあります。

投稿に使われているのが、多くの人に共通する懐かしい風景だからです。

  • 登校前に見ていた朝のテレビ
  • 木製のテレビ台
  • テレビの前に座る子ども
  • テーブルに広げられた宿題
  • 少し古い番組画面
  • 子ども向け番組らしい原色の衣装
  • 当時を思わせる時刻表示

個々の番組を覚えていなくても、「子どもの頃、朝にテレビを見ていた記憶」は持っている人が多いでしょう。

その共通体験に「昔、一度だけ見た不気味な回」という設定を加えることで、存在しない放送を自分の記憶と結びつけてしまうのです。

これは「マンデラ効果」に似た面があります。ただし、自然発生した集団的な勘違いというより、偽の記憶を意図的に作り出す創作手法と見る方が近いでしょう。

都市伝説というよりロストメディア風ホラー

これらの投稿は、昔から語り継がれてきた都市伝説ではありません。

分類するなら、次のような表現が適しています。

  • 存在しないテレビ番組
  • 架空の放送事故
  • 偽記憶系ホラー
  • ロストメディア風ホラー
  • アナログホラー
  • クリーピーパスタ

ロストメディアとは、過去に存在したものの、現在は映像や音源などが失われ、視聴できなくなった作品を指します。

今回の投稿は、「記録が残っていない」「検索しても見つからない」と強調することで、失われた番組を探しているような雰囲気を作っています。

ただし、失われた証拠があるのではなく、そもそも番組や放送自体が存在しなかった可能性があります。そのため、「ロストメディアそのもの」ではなく、「ロストメディアを装った創作」と考えるのが妥当です。

『ZIP!』の謎の男は創作の可能性が高い

『ZIP!』の中継に毎朝現れ、日に日にカメラへ近づいてきたという男性について、実在を示す映像や当時の記録は確認できませんでした。

さらに、同じ形式で『シャキーン!』『わしも』、架空とみられる教育番組『そろえてみよう』などの投稿があります。

これらの共通点から、『ZIP!』の謎の男も実際の放送事故ではなく、シリーズの一つとして作られた創作ホラーである可能性が高いでしょう。

もっとも、このシリーズのおもしろさは、単に視聴者をだますことだけではありません。

誰にでもありそうな子ども時代の記憶を利用し、

「もしかすると、自分だけが忘れているのではないか」

という感覚を生み出している点にあります。

『ZIP!』の謎の男の正体は、2018年の東京駅前に立っていた人物ではなく、私たちの曖昧な記憶の中に入り込むために作られた、架空の存在なのかもしれません。